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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)908号 判決 1971年11月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人早川登、同桑原太枝子の上告理由一について。

原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)は、つぎの諸事実を認定している。すなわち、(1)一宮市千秋町加納馬場字大塚二三番畑八二六平方メートル(八畝一〇歩、以下本件土地という。)は、昭和三八年一〇月一日土地改良事業の完了により換地されて上告人が取得したものであるが、上告人においては、右土地を昭和三六年頃まで畑として耕作したものの、その後は耕作もしないで放置しており、そのため次第に荒地と化していた、(2)上告人は、昭和四一年二月三日被上告人に対し、本件土地を、代金は三五〇万円、所有権移転登記手続は、右土地を二筆に分筆し、うち一筆を昭和四一年に、他の一筆を昭和四二年六月までに済ませるとの約束で、売り渡す契約を締結し、その後本件土地は、同所二三番の一と二三番の二とに分筆されたが、前者については農地法五条による県知事の許可を得て昭和四二年一二月一八日上告人から被上告人に所有権移転登記が経由された、(3)これよりさき昭和四二年七月、被上告人から上告人に対し、本件二三番の一とともに二三番の二の土地の使用につき承諾を求めたところ、当時原判決の事情から隣地耕作者が二三番の二の土地の一部を耕作する等侵入することもあつた関係上、上告人は、右土地の周囲に柵を設けて、所有権移転登記完了までの間使用することを承諾したので、被上告人は、右二三番の一の地上に三男早川隆三の建物を新築するとともに、二三番の二の土地の周囲に有刺鉄線で柵を施して占有管理し現在にいたつた、(4)なお、被上告人は、昭和四三年一月初旬までの間に、右売買代金の支払義務を全部履行した、以上の諸事実は、原審の適法に確定したところである。

右によれば、上告人が、被上告人に対し本件土地を宅地転用の目的で売り渡した後、被上告人の求めにより、右売買につき農地法所定の県知事の許可が得られるにさきだち、本件二三番の二の土地の周囲に柵を設けて使用し占有することを承諾したことは明らかである。そして、上告人の承諾を得たといつても、右使用貸借について県知事の許可がない以上、被上告人が、使用貸借により引渡を受けたことを理由に、上告人の所有権に基づく返還請求を拒むことは、元来は許されないものというべきである。

しかし、前述のように、上告人が、数年間も耕作せず放置していた本件土地を被上告人に売却し、その所有権移転登記完了までの間も、とくにその使用を承諾して引き渡した後において、上告人の家庭内で財産分けについて紛争が生じたことから、本件二三番の二の土地については、前記売買契約が合意解除されたと主張し、右使用承諾等の事実さえも争い、ひいて県知事に対する所要の許可申請手続を延引しながら、被上告人の占有をもつてその権原を欠く不法のものとなし、本訴請求に及んだのは、その権利の行使において信義誠実の原則に従つたものとはいえず、上告人の右請求は排斥を免れないというべきである。

右と同趣旨の原判決は相当であり、所論引用の判例(最高裁判所昭和三三年(オ)第一〇五三号、同三七年五月二九日第三小法廷判決、民集一六巻五号一二二六頁)は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

同二について。

上告人の本訴請求を排斥すべきものとした原審の判断が是認できることは、右上告理由一に対し説示したとおりであるから、所論の原判示は、結果において、必要がなかつたことに帰するものであり、論旨は、ひつきよう、無用の原判示を前提として原判決の違法をいうものであつて、採用することができない。

同三および四について。

所論のように、一般に愛知県では、農地法五条の許可に、許可日以後一年内に事業に着工しなければ無効となるという条件がつけられるといい、あるいは、市街化調整区域内における農地転用許可基準が新たに厳しく規制されるにいたつたというだけで、原判決が、違法、不能な内容の給付を命じた第一審判決を是認したといつて非難するのは当らない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用のかぎりでない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷)

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